『ミスト』チャッカマンは焦らずにね


スティーヴン・キング原作の『』を『グリーン・マイル』や『ショーシャンクの空に』のフランク・ダラボン監督が映画化。という前情報に、泣ける・感動・ヒューマニズム万歳!!な映画を期待したカップルたちの落胆の声が絶えない終演後だった。とはいえ、ダラボンの観客をどれほど精神的に落とせるか弄ぶという根底のスタイルは実は前述の作品にも通じていたりする。ちなみにダラボンは『ザ・フライ2-二世誕生』(ああエリック・ストルツの美尻!!)の脚本から好きだったりして、今回もかなり信頼していた。原作もこれは読んでいたけれど、スティーブン・キングすら羨んだという敢えて変更されたラストも楽しみで挑んだ。

いわゆる「突然巻き込まれ型」のパニックもの、で片付ける以上の価値がある良作だった。そして全く持って映画館向けの映画だ。スクリーンの中の人々は濃霧に包まれた街のスーパーという監禁シチュエーションに置かれる。これだけで劇場という閉鎖敵空間にいる観客も「巻き込まれ」ている気分が盛り上がるな―。さらにカメラも、出だしはゆっくりと眺める目線ようにパンするロングカットで、いざパニックになるとスピーディーに動くあたりも評価どころ。

彼らに襲い掛かる恐怖の数々、多くの人間が冷静な判断力を失う状況では「みんなで力を合わせて」だの「運命共同体だろ」だのという暢気な絵空事はまず有り得ない。醜い人間たちの争いが繰り広げられる。いち早く霧に潜む捕食キャラ担当のクリーチャー存在を知った主人公ディヴィットは最良と思われる判断を冷静にしていく。しかし自分の知性に絶対的な自信を持つ一流弁護士は一切彼を信じない。さらに弁護士に対立する労働者階級の中年男旧約聖書片手に騒ぎ立てる宗教狂いの女など、スーパーマーケットがアメリカという国の縮図としても取れるのは興味深い。

そして霧の中に潜むクリーチャーの描き方が最高に上手い。一寸先すら見えない濃霧からのチラ見せは、見せ過ぎず観客の脳内補充で十分スリリング。むしろ一層恐さを引き立てる。それでいて、いざという時はたっぷりと見せる潔さのギャップが効果的。4パターン以上ものクリーチャーズはバリエーションも豊か。

さらに勇敢にも立ち向かう主要メンバーに冴えないハゲかかったスーパー店員だったり、鶏ガラみたいなお婆ちゃんだったりするところは、屈強な男たちが呆気なくやられる悲惨な"所詮人間なんて無力なもんよ"という逆賛美的なものよりずっと頼もしく、胸が熱くなったり。

すったもんだの末の(乱暴な表現)脱出劇を経て衝撃的過ぎるラストが描かれる。かなりショッキングで、やっぱり精神的に落ちた…私の許容範囲を超えてる。ディヴィットと彼の息子の親子愛を(息子の台詞も含めて)ああして描くのは、原作と違うエンディングにしてもキングが絶賛するに値している。さらに、それまでのディヴィットという人物が誰一人の命も無駄にしようとせず、全力で救おうとする精神を持ったキャラクターであることがラストを一層悲壮的にする皮肉でもあるし。恐らくこの映画の最大のポイントは、この親子愛における苦渋の決断なのかもしれない。ハリウッド映画であることに油断してかかり、裏切られたアメリカの観客の数もさぞ多かろうと思ったりで、すばらしい映画でした。

おまけ
もし気分が悪くなったりしなければ、エンドロールも最後まで席に座って観てください。ラストの虚しく響くサウンドエフェクトが、トドメを刺してくれます。余韻が、、、ね。あと、こぶさんの感想も私の思ってること全部言ってくれてるんで是非どうぞ。キャスティングも良かったですね!