『Juno/ジュノ』


監督のジェイソン・ライトマンは前作『サンキュー・スモーキング』でもデリケートな問題を扱いながら是非を問うことなく、中立の立場から作品をつくった。そして新作『Juno/ジュノ』も10代の妊娠というこれまた際どいテーマの作品ではあるが、ともすれば重苦しく一度観たら二度と見たくない性教育ビデオみたいな映画になりそうなところを実に軽いタッチでアップビートに描いてて、好感度高め。

16歳の少女ジュノはちょっと良いと思ってたバンド仲間のポーリーとノリでエッチして妊娠をしてしまう。皮肉っぽく口は達者な彼女だが、見た目はいわゆる『性的に活発』なティーンというよりはむしろ年齢よりも幼く見える。それでも演じているエレン・ペイジは私と同い年なんだけど。しかも生意気な口ぶりまでよく似てる。

まぁそんな余談は良いとして、妊娠が確かなものとなったら親友にハンバーガー型テレフォンで報告。(ちなみにこの電話、脚本家のディアブロ・コーディの私物らしいけど、ジュノの部屋だけでなくポーリーの部屋にもあったので、恐らく使い回し)この電話も、場の緊張感をぶち壊す小道具でありながら、機能よりデザイン重視な彼女のティーンらしい心のメタファーとも取れる。このあたりの場面でピンぼけしてるけど、パティ・スミスの『HORSES』がチラリと移る。無造作に床にあるのが逆にクール。彼女は77年のパンク音楽が最高だと思ってる女の子だ。

Horses

Horses

最初は堕胎も考えたがジュノだが『赤ちゃんでも爪が生えてるのよ』という言葉で思い留まる。だからといってこの映画が中絶反対をうたってるかという解釈はとんだ的外れだろう。大事なのは彼女の意志であり、何を選択したかではないことは明確。

里親探しもなるべく他人事みたいに軽いノリで済ませたがり、腹がいくら大きくなろうと彼女は『モノ(thing)』を『しぼり出す(squeeze out)』という表現を変えない。しかしそれは現実を直視すること避けたい彼女の16歳のデリケートな心情の現れで、いくら避けたくても腹はいやでも拡大を止めないことを彼女は分かってる。(私なんて齢21でも自分の腹がデカくなるなんてゾッとしちゃうね)

里親になる夫婦は一見円満そうに見えて、実は妻のために夫は愛するロックの夢を小さな部屋に押し込めて我慢をしている。ただでさえ肩身が狭いというの彼の職業は耳障りの良いCMソングばかり作る売れっ子作曲家。なまじ音楽に触れてる分、二重の屈辱に近いものがある。ちなみに彼は1993年がロック最良の年だと思ってる奴で、ジュノにはソニック・ユースがカバーしたカーペンターズの曲を聞かせたりする。結局ジュノには「まぁ…キュートって感じね」と小生意気な評価を受けるんだけど。(最終的には「雑音」に格下げ!)それにしても、彼の音楽的趣味からすれば、1991年の方が最良な気もしないでもない。グランジは好きじゃないから詳しくないのであまり掘り下げないでおく。ちなみにベルセバの曲が優しく流れる時がスゴク素敵。

ちなみに妻が赤ん坊の部屋をペイントしてる時にThe Alice in ChainsのTシャツをペンキで汚しまくってたり、ジュノに触発されて夢に目覚めた夫に妻が『あなたがカート・コバーンになるのを待ってなんかいられない!』と浴びせるなどのロック小ネタも笑える。ただ、字幕ではカート・コバーンが『スター』になっててつまらなくなってしまっていた。やはり『ジュノ』の最大の魅力はその脚本にあるわけで、元ネタが日本人に伝わりづらいのはかなり大きな障壁になっている。誰が字幕かと思いきや、松浦美奈さんだったので驚き。彼女ほど経験と腕がある字幕製作者でも難しかったか…。

女性が書いた女の子が主人公の脚本とはいえ、男性の描き方も秀逸だった。余裕ある口調で愛を語れる父親や、まだ重荷は背負いたくない男、そして突然妊娠に関わってしまった張本人となった少年。もちろん少年はポーリーのこと。生足まぶしい陸上部のポーリーは心優しくて、何かジュノにしてあげたいと思うときもあるけど何をしたら良いか分からない、だんだん他人事みたいになってきて…そんな繊細な心の機微を器用に描いている。特にピリピリした会話のあとにジュノの重そうな荷物を「持とうか?」と尋ね、「今更5キロくらい、なんてことない」と一蹴にされてしまうとこなんて、あ―あ、と一緒にため息つきたくなる。

総合的にはなかなか楽しめる作品でした。ただやっぱり字幕が的確な言葉が選べてないだけじゃなく、雑だったのが残念。尺が長い?と思ったら90分程度。長ったらしいというわけじゃなく、ゆったりとした空気は悪くない。まぁただ音楽ネタも含めて16歳が見るのは逆に伝わりにくいものがありそう。大人の観賞用ですね。

オリジナル・サウンドトラック JUNO/ジュノ

オリジナル・サウンドトラック JUNO/ジュノ