『おくりびと』

『キレイになって、 逝ってらっしゃい。』は良いコピーだな。

モントリオール世界映画祭は近年、北米最大規模の映画祭として頭角を現しているし、年々注目されているような感じがするので、なかなか嬉しい受賞。一昨年の奥田瑛二監督作品『長い散歩』も受賞しているが、『おくりびと』はかなり早い段階からCMなどのプロモーション活動をしていたので、松竹も万々歳というところか。質の高い作品をヒットさせたいという本音は映画業界どこも同じなわけだしな。

納棺師という仕事にスポットをあてた今作。チェロ奏者の主人公が楽団の解散によって山形の地元に帰り、望んだわけでもないが生活のために納棺師として働き始める男のドラマ。

まず、かなり笑わせる。このユーモアの使い方がうまい。泣ける…と思ったら笑わせてしまう。もちろん大笑いではなく、笑っちゃいけないのに笑っちゃってすみませんという不謹慎な笑いである。もちろんほのぼのした笑いもあるけど。私も、祖父の葬式で泣きたい気持ちでいっぱいだったのに、呆れて笑ってしまったことがある。地元で評判の坊主が、お経をすっ飛ばして読んでいるのが見えたからだ。あいつは酷い坊主だった。お盆のときも来たんだけど、なんと祖父の仏壇の前で座りもせずに手を合わせてチーンとしただけで立ち去った。玄関トゥ玄関まで、およそ3分の出来事だったと思う。とんだ生臭坊主だ。

話がイナバウアーぐらい逸れたけど、その泣きと笑いで観客を見事に操る監督は大した策士だと思う。80年代に『痴漢電車』だの『絶倫ギャルヤル気ムンムン』だの『はみ出しスクール水着』だのという成人映画を大量に手がけていたという過去をチャラにしてやったって良いぐらいだ。ただ、そのストラテジーの底が透けて見えるので、ひねくれた私には少し疲れるものがある。

こういった儀式の中に、日本人の死の捉え方というか、死生観が浮き彫りになるわけで、そういったものを優しい目線で笑いを交えながら描いていったのが、やはり海外でも受け入れられたんだろう。日本人といっても、多種多様で、死者の生前の希望に沿っていたり、出来る限り理想的なかたちでおくり出してあげたいという遺族の温かいこだわりがあるのが面白い。

さらに導入で見せる納棺の儀を緊張感から笑える寸劇に持ち込み、中盤でまた同じ納棺シーンを一部重複させて見せながら観客に全く違う感情を生み出させる構成は秀逸。

本木君の演技も、不自然の一歩手前のようなコミカルさがある。たまに軽すぎるくらい軽いが、シリアスな場面とのギャップが一層引き立つ。何より彼が行う納棺の儀式の動きがなめらかで優しく、指先までもが美しい。社長を演じた山崎努も、ここ最近では一番良い味を出していた。いつも大袈裟に作り込み過ぎているように見えるので、このぐらいゆるめが良い。事務員の余貴美子の演技もいわずもがな。吉行和子笹野高史も昆布と鰹の良い合わせダシって感じだ。

ところで、主人公の妻を演じた広末が無駄に艶っぽさをチラつかせているのは狙いなのか。まぁそれは良いとしても、舌ったらずで、幼い印象が抜けない口調が気に障る。献身的な妻という役にビジュアル的には申し分が無いのに、細やかさが足りず粗が目立つ。だから夫が納棺師として働いていたことを知ったときの一言が、宙に浮いている。ラストは良かったが、あれは脚本が良かったのであって、評価できるのは彼女の演技ではないのが惜しい。あとインサートされる鳥の羽ばたきや、『タコ』や『鮭』は無くてもいい。

それでも大いに評価したいというか、感銘を受けたのは、主人公が目指していた夢が本当に夢ではなく、単なる呪縛であったという事実を受け止めて、先に進んでいくという姿勢にあるのかもしれない。夢は自分が自分に与えた使命のように勘違いしてしまうことがある。あるべき自分に気がついた大悟の『もっと早く自分の才能の限界に気がつくべきだった』という一言は絶望の色は薄く、諦めというよりはむしろ現実的だ。まぁ、生きるってそういうことなんだよな。自分に何が出来るか知ろうともしないで盲目的に夢を追いかけるんじゃなくて。

大悟は父親に捨てられたという気持ちがある。女を作って妻と子を残し出ていった男だ。それでも彼が父を憎んでいたとしたら、チェロはとっくに捨て去っていただろう。なんたってチェロを教え込もうとしたのは父なのだし、見るのも嫌になっていたはずだ。大悟にとってのチェロは、母親にとってレコードであり、どちらも愛憎入り混じった父親の幻影なのだ。彼がチェロと一回距離を取って向かい合い、『これで食ってくんだ』というガッツきも焦燥もない、まっさらな思いで弾いている場面は素晴らしい。ほんとに本木君が弾いてるんだってね。

しかし、この父と子の関係は違和感なく組み込まれているようで、どうも本筋から遊離しているようにも思えるというか、欲張りすぎた感がある。独立できるほど、丁寧に描いているし。けれど、クライマックスに用意されたドラマはお約束だと分かっていながら涙なしで見られないのも事実。本音を言えば、ベタ過ぎたかな。でも良いか。情けなくも久石譲の音楽も手伝ってそんなベターなところまで完全に映画にリードされてしまったのはどうにも不甲斐ない気もするが、広く受け入れられる作品であることは確か。

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