『GSワンダーランド』

とにかくGSやりたい!!―そんな願望を持った若者たちが、バンドを組み、事務所からスカウトされるが、何故か男装をした女の子ミックをオルガンに迎えてデビューをすることになった話という。監督は『東京ハレンチ学園・さよならのブルース』の本田隆一。

いきなり艶やかなブーツから60年代ファッションに身を包んだ栗山千明を下から舐めるところから始まったときに、鼻息荒めに心拍数が上がったのだけど、最後までそこそこのテンションが保たれたのも彼女のおかげなんだろう。

60年代後半から70年代前期にかけてのGSブームを、監督は愛あるシニカル目線で描いている。学生運動真っ盛りで、じっとしていられないような衝動から、主人公達が向かった矛先は『GS』。女の子たちに黄色い声援を浴びせられたいという願望よりも、ずっとピュアにバンドをやりたがっているマサオ(石田卓也)。ポール・マッカートニーとリンゴ・スターが日本の若者に楽器を教えるために秋田に来ているという嘘を信じて、三ヶ月秋田を彷徨ったシュン(水嶋ヒロ)とケンタ(浅利陽介)。この三人がふとしたきっかけで出会い、バンドを組むことになる。

彼らを拾うのは、GSブームにどうしてもあやかりたいレコード会社で、GSバンド探しを任じられた弱小プロダクションの梶井(武田真治)はビルの屋上から聞えた彼らの演奏を聴き、即スカウトする。しかし、オルガンが必要なことを聞かされ、急遽バンドに迎えられたのは男装した歌手志望の家出娘ミクだった。彼女は歌手としてソロデビューをさせてもらうことを交換条件にバンド活動をするのだ。

ミクを演じた栗山千明が惜しみなくその魅力を発揮しているのだけど、あまりにも男装(ミック)が様になっていると思うのが私だけなのか、劇中でマサオたちが『どうみたって…ねぇ?』と女であることを疑うのが少し不自然。*1登場時のミクの生意気な態度から考えて、『だ、男装?そんなの出来っかよ!』と言いながらみんなに『頼む!』と土下座されて、次のシーンでいきなり男装の『いいじゃん!いけるよ!』みたいに運んだ方が栗山千明のツンツン演技を楽しめておいしかったかもしれないと思ったり。結果的にキャラクターとしてミクはツンデレを確立しているけれど。彼女はミックとして、その王子様風の中世的ルックス*2からバンド人気を引っ張ることになる。

ブームを作って、衰退させていった彼らの試行錯誤というか迷走っぷりが、かなり滑稽。マサオたちは元々『とりあえずGSやりたい』『とりあえず目標は日劇』という形式だけに憧れていたので、レコード会社に踊らされて着せ替え人形状態になる。そしてタイツを履いた『ザ・タイツメン』として爆発的な人気を博するのだけど…とまあここから先は観てのお楽しみ。しかし、レコード会社の社長が元ザ・タイガーズの岸部一徳というのは嬉しい出演。*3 GS担当なのにうまくいかない杉本哲太が『軍隊だったら独房いきだよ?』と上司に言われるのには、ああ当時は戦争中の話もネタになるのかと。

ズームを多用した60年代の商業映画風のワークもそれなり楽しいし、細部までこだわった小道具に満足できるけど、当時の雰囲気を出せてたかと言えばだいぶこじんまりとしちゃってる感じ。やたら登場する『祭り』という言葉に、映画が即していないというか、いったいどういう背景があってマサオが『祭り』に拘るのかというのがハッキリしない。序盤で台詞では『学生運動とかしてんだぜ!日本中お祭り騒ぎだ!』と言うけど、予算の関係か舞台がチマチマしてるので、言葉だけが浮いている。

監督の自己満足の映画にならないようにか、バンドメンバー達の台詞回しを今時の漫才風にすることで、今の若い層を楽しませようという気持ちが伝わる。悪くはないけど、もう少しボケとツッコミの立ち位置が決まってるとグダグダしなくて済んだか。ただ、現代っぽさを当時の雰囲気に入れてしまったのが、作品として成功しているのかどうかはちょっと怪しい。

さらに、映画の最大の欠点になっているのは温水洋一率いる『フレッシュフォー』の存在か。ラストのダメ押しに近い登場には、ちょっと怒り心頭。そろそろ温水でウケ狙うのやめないか。(ネタバレ反転:ラスト、彼の歌で締めるとかナイでしょうに…あれは本当に最悪としか言いようが無い。その前の栗山千明が美しかっただけに、許しがたかった。)

出演者達が全員、歌が上手いのは高得点。もちろん曲も良い。橋本淳筒美京平というゴールデンコンビが作っているだけあってメインの『海岸線のホテル』なんて実にキャッチーでポップ。個人的にCD買っちゃったって良いぐらい、使用された楽曲は良かった。

今となってはザ・スパイダースやザ・タイガース、ザ・テンプターズのような大成功を収めたバンドを除けば、GSブームと共に忘れ去られてしまったバンドばかり。良いものしか残らないから過去は美化されがちだけど、そういう時代に翻弄されながら散っていったバンドたちを思うと、少し切なくなったり?全体的には日本版『すべてをあなたに』という感じ。60年代の音楽ブームに踊らされて、短い夢を見た当時の若者たちに拍手と熱燗を。

GSブームを知らなくても楽しめる…って多分みんな言うんだろうけど、そんな感じです。でも、これを観てGSにハマる人って少ないんだろうね。ガンダムと一緒。

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公式サイト【http://www.gs-w.jp/

*1:マサオたちは一ヶ月間ミックが女だということを知らされない。

*2:台詞では『ジュリーの再来』とか言われてる。

*3:もっとも彼は何でもやりかねない俳優になりつつあるけど…。