『宮廷画家ゴヤは見た』

18世紀末のスペインを舞台に時代に翻弄される人々のドラマ。ロレンゾ修道士は宮廷画家のゴヤに肖像画を描いてもらっているときに、一枚の美しい少女が書かれた肖像画を見つける。その少女は裕福な商人の娘イネス。ロレンゾは彼女の美しさに心奪われるが、彼が強化した異端尋問にイネスがかけられてしまう。

監督は『カッコーの巣の上で』のミロス・フォアマン。脚本は『昼顔』などのブニュエル作品で知られるジャン=クロード・カリエール。

タイトルから分かるようにまるで『家政婦は見た』の市原悦子の如くゴヤを時代の目撃者に配置しているので、新しいゴヤ像が垣間見ることが出来るのも興味深い。今まで映画で描かれるゴヤは耳が聞こえなくなってから奇妙な絵を描きだした変な画家という扱いだったものを、この映画ではゴヤなんか比にもならない強烈なキャラクターを登場させる。それがハビエル・バルデム演じるロレンゾだ。ゴヤは終始至って常識人で、観客の立場にたってくれているよう。

とにかく、このキモさが一級。柔和でねちっこく裏声に近い口調。ハビエル・バルデムの演技の真骨頂を見せつけられるようなキャラクターだった。これも彼の綿密な役作りと勘の良さ、そして才能のなせる業。

異端尋問の拷問に掛けられたイネス。イネスを演じたナタリー・ポートマンは親が厳しくてヌード厳禁だの、お嬢様なイメージがどうのこうのと言われていたのも昔なのか、この役は文字通り体当たりそのもの…と思いきや、やはりボディ・ダブルを使用したらしく、だったら役者根性見せろやゴルァと思ったり。それでも悲痛な叫びを上げて拷問を受けるイネスにハァハァするもよしではある。家族やロレンゾの懇願も虚しく、イネスは解放されることはなかった。ロレンソは追放され、ゴヤが描いた彼の肖像画も燃やされてしまう。都合が悪い存在を悪役にして、抹消するという権力の醜悪さを表現。

月日は流れ、ナポレオンのスペイン侵攻が始まる。ここもダラダラさせず、一瞬で切り替わるのが良かった。イネスは異端尋問の禁止によって解放されるのだけど、かつての美しさは何処へ、牛乳を拭いてから床で乾いたボロ雑巾のような姿になっている。このナタリー・ポートマンもすごい。特殊メイクを施されてはいるものの、整った輪郭を大きく歪ませた状態を保つのはさぞかし大変だったろうなと窺わせる見事な演技。必見。

演技面ばかりを褒めてしまったけれど、コスプレ物特有の壮大さよりもゴヤと彼が目撃した男と女の運命だけに焦点をしぼったことで、起承転結がまとまっているのがすばらしい。劇中のゴヤが描いた肖像画のような小道具(大道具か)も見事な出来栄えだし、抜かりない。ゴヤの奇天烈な絵を描き始めたというよりは、時代を克明に描こうとした結果のひとつとしてあのような芸術作品が仕上がったという解釈が出来る。確か99年の『ゴヤ』は本国でも高く評価された作品だったれど、もっと偏屈で厭世的な男に描かれており結構退屈な内容だったと記憶しているような…。

スケールのでかさではなく、不条理な運命や人間のカルマなどを濃厚に味わえる一品。スペインオールロケなんだし、欲を言えばスペイン語が良かったかなと。何せ、登場する酒場のシーンでナタリーが英語で話しているのにガヤは全部普通にスペイン語だったんでね。まぁそんなもんですか。

2006年の映画なのに日本での公開が遅くなった…というかようやく公開に至ったというのも、ハビエルさんが『ノー・カントリー』で有名になったからなんじゃないですかね。にしてもキャッチコピーがいまいち。

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公式サイト【http://goya-mita.com/