「ファニーゲームU.S.A」ありがとう、良い非暴力です。

オリジナルと何が違うかといえばやはり役者なんだけど、キャスティングは成功。特にナオミ・ワッツの本気度たるや、さすが女優。「ドッグヴィル」では同胞の友人ニコール・キッドマンラース・フォン・トリアーのいじめに耐え抜いていたが、ナオミ・ワッツも自ら製作総指揮を務めてハネケのいじめに耐え抜いたようだ。反撃もできずになじられ続ける夫を演じたティム・ロスもいい感じの一般人面で、これが痛みをジワジワと伝えてくる。少年もしょっぱなからマジビビリの絶対小便チビってるだろという演技を見せてくれるので、やはり子役は計り知れない。

それはそうと、やはりハネケが伝えたいのはバイオレンスを好む人々への問題定義であって、一家を襲う若者二人はいかにオーディエンスを楽しませるかについて劇中で何度も言及する。時折カメラ目線で語りだす若者は、自らの異常性すら笑いの種にし、バイオレンスを三時のおやつの如く消費する麻痺しきった我々に向かって話し、にやりと視線を投げる。そういや私は数日前も映画に向かって、やれ血糊が足りないだの銃弾が足りないだの野次を飛ばしていた気がする。

具体的に何が起きているか見せないシーンは、怖さを倍増させているのではない。ナイフで刺された夫を、乳房をさらけ出した妻を、チラリとでも知的好奇心をそそられてしまった観客自身が自分に対して怖さを感じるべきなのではないかと思う。私もオリジナルを観たときはそんな自分に震えた。違う違う、私はまだ正気だと肯定するように一筋の涙が流れた。ああ見透かされていると思いながら懲りずに今回も胸が痛んだ自分にあほらしい安堵。以下ネタバレを含むので文字反転で読んでください。

にしてもカメラワークは素晴らしい。横たわる少年の死体の脇で両手両足を縛られたナオミ・ワッツが倒れたり緊縛を解いたりしようともがく姿を固定カメラで長回しするあたりは残酷だし、ラストのボートから降りる足元を映したアングルのヒッチ・コックさは面白い。私の眼に最も惨めったらしく映ったのは、携帯を乾かすティム・ロスかな。泣ける。良い俳優です。

ちなみにマイケル・ピットも相変わらず素敵だし、普通に立ってて普通じゃない雰囲気を十分に出せている。もう片方のデブを演じた俳優も、不愉快な口調と動きでこちらの憎悪を膨らませてくれる。だからこそ、あのシーンでガッツポーズをしてしまうんだけど、そんな簡単に戻せるもんじゃないんだよね。はい。たぶん川崎のチネチッタと渋谷のシネマライズでしか公開していないんだろうけど、さすが元日。ガラガラでした。それだけみなさん正常っていうことですか。良かったですね。