『ヘヴンズ・ドア』難病はまだまだビジネスになる!!

ネタバレとか気を遣うタイプじゃないので下にいくにつれ危険度は高くなります。あしからず。
ボブ・ディランの曲のタイトルをまんま取ったドイツ映画『ノッキング・オン・ザ・ヘヴンズ・ドア』をリメイクした今作は、かなり日本的な仕上がりに落ち着いている。ストーリーは面倒なのでザックリ書くが、長瀬智也演じる若い男は突然病院で脳にこぶし大の腫瘍があると告げられ、もはや手の施しようもないので即入院を進められる。そこで末期がんの少女と出会い二人は意気投合し、思い出の海を目指す。しかし、二人が逃亡に使った盗難車が危ない会社の黒いお金を積んでいたということが問題になって二人は終われる身となる。

ここが一番映画を腐ったものにした原因だと思う。オリジナルでは主人公二人は同世代の男で、ビジュアルはむさ苦しいんだけれども、これが次第に良い味を出してくる。さらに盗んだ車はギャングのもので、取り返そうと奮闘する間抜けなギャングたちも見てて可笑しく、魅力的だ。しかし、日本版では『K3ホールディングス』といういかにもキナ臭い会社の車ということになっている。とりあえずやばいことしてそうな黒い会社だってことしか説明もなく、社長を演じる長塚圭史のクリーピーな演技が鼻につくだけ。金を取り戻せとフルボッコにされる社員に大倉孝二田中泯。ダダズべりはまず避けられる安心の配役だが、そもそも会社の正体が意味深な描写を含みながら結局最後まで薄っぺらにしか説明されないので、いっそただのジャパニーズ・ヤクザ(っぽいの)にしちまったほうがよっぽど簡略化されて良かっただろうね。

主人公の二人は強盗を繰り返した結果、警察からも追われる羽目になる。渋谷でコンビニATM強盗ってのもバカ過ぎるけれど、県警部長の三浦友和のダメ上司っぷりも終始すべっていたような。言われたことやってんだから三浦友和には責任はないけど、警察のダメっぷりをおちょくる目的がオリジナルほど成功していないのが残念。

肝心の主人公たちについては、久しく病院を出ていない少女が車からあらゆる景色を眺めて感動する描写で、観客にとっては腐るほど見飽きた都会や雨などを新鮮なものにするために幻想的なエフェクトを用いている点や、医者にも二・三日の命と告げられている男が何度も眩暈を起こして倒れるときの視界の視覚的効果など、なるべく観客に体感させるような仕組みあるのは監督のカラーが出ていて好感が持てる。

ただね―多分いろんな人も思ってるんだろうけど、麻由子ちゃん元気良すぎるんだよね。絶対死なないでしょ…オリジナルではヘタレっぽい男が演じてたのでまだ理解できるけど、麻由子ちゃんは元気いっぱい。雨の中でも大はしゃぎ。それでも彼女の演技を見るだけでも映画の価値はあると言わせるものはある。女優は『眼』と『声』だと思うんだが、彼女は両方持っている。説得力のある声と力強い眼は魅力的だと思う。長瀬も含めて、ビジュアル的な面では文句がない華のあるキャスティングだと言える。

あれこれオカシナ点を残しながら進む中で評価できるシーンは、それまでの人生好き勝手生きてきた男が死にそうになって、最期はおふくろに会いたいと願いながら最終的に合わす顔がないように遠くから見つめるだけで泣き崩れるところだろうか。死にたくないと必死に願う気持ちと、後悔の念を包み込むだけの母性が相方の福田麻由子から滲み出ているのも良かった。まぁ、泣きはしないけど。

ラスト、海のシーンは日本らしく灰色で薄汚い景色だった。オリジナルでは夕日だっけ、朝焼けだっけ。とにかく赤くて綺麗な海だった気がするんだが、コチラはあまり海がキレイじゃないのでせめて涙を頬に伝わせながら少女が『なんだこんなもんか』なんて笑っても良かったんじゃないかな―。いわゆる『難病モノ』とは一線を画したつくりを目指したつもりなのだろうけど、収束する先は同じと言うか。ラストの仰々しいアンジェラ・アキの歌声にまたシラケてしまうような私の感性が腐っているのかもしれないけどそれでも構わないや。もっと爽快感があっても良かったとは思うが、監督も撮影中泣きながら撮ってたらしいのでしょうがないのかも。