『スラムドッグ$ミリオネア』

全編インドで撮影されたダニー・ボイル監督最新作。クイズ番組「クイズ$ミリオネア」で、あと一問の正解で史上最高金額の賞金を手に入れるという青年ジャマール。彼が不正を疑われて拷問される場面から始まる。疑われるのも至極当然だった。スラムで育ち、今は電話交換室のオペレーター(お茶くみ)をしている学のない彼が答えられるはずがないと誰もが決め込んでいたからだ。警察の尋問に答えながら、正解してきたクイズと彼の壮絶な人生をリンクして描く。

幼少時代、ムンバイのスラム街を疾走する子どもたち。子どもは生き生きとした表情で細道を駆け回り、野犬の脇をすり抜ける。パッと浮かぶのは『シティ・オブ・ゴッド』のオープニング。確かに似ているけど、空撮を用いてよりムンバイの全体像を映すようなものだった。なんかもう小さな家がほとんど隙間なく犇めき合っていて、上から見るとまるでコルクの板みたい。まぁ住むのは遠慮したい。

イスラム教徒の廃絶運動に巻き込まれて母を失くしたジャマールと兄サリームは同じ境遇の少女ラティカと出会う。この映画は一見するとサクセスなラブストーリーという感じだが、むしろ3人の友情物語に近い。

成長して、離れ離れになろうとも彼女を純粋に想い続けるジャマールとすっかりギャングらしさが板についたサリームは、対照的だ。ひたむきにラティカを探し続けるジャマールは、物乞いをさせられていた頃の仲間からラティカの居場所の手がかりを掴む。この仲間だった少年は歌が上手くなかったので、目を潰されて歌わされている。『盲目の歌手は倍稼げるんだ』と己の運命を悲観する様子もなく語り、紙幣を握らせたジャマールの手を取り『偉くなったんだねジャマール。』『君は運が良かったんだ。僕はよくなかった。それだけだ』と言う。そこには羨望も諦念も覗かせていない、ただそういう運命だったのだと受け入れた哀しい少年が立っている。そしてそう、ジャマールは運が良かっただけだ。

我武者羅に生きて、死ぬ気で努力して、愛も賞金も手に入れたのではない。そういう『運命』だったのだ。努力するのは当たり前だし、スラムは死ぬ気じゃないと生きていけないような世界だけど、それは彼だけじゃない。今作は台詞の3分の1がヒンディー語にも関わらずアメリカでもヒットしたが、それは『ロッキー』を作れなくなった、夢を失ったアメリカが希望を映画に求めたからだと思う。結局は『俺はクズじゃねえ』と立ち上がったロッキーが手にした『アメリカン・ドリーム』と同じだけど、よりファンタジーっぽさが『スラムドッグ・ミリオネア』では強められている。スタローンはロッキーは"所詮ファンタジー"だとしても、国民に希望を持たせるために最大限リアルに作る努力をした。そこには観客が自己投影するという前提があったからだと思う。

でも我々は『スラムドッグ・ミリオネア』を観ても、よし!自分も明日からロト6で成金目指すぞ!大切なのは強く願う気持ちだ!なんて馬鹿げた夢を見る気にはならないし、現実がそんな夢を見る隙を与えてはくれない。ただ漠然と、ジャマールには幸せになって欲しいと思う。何故なら、彼はそうなるように『運命』付けられているからだ。何も希望が持てないから、せめてジャマールくらいは、という願いに近い。もちろん彼の諦めない健気な性格も魅力的だということもある。だけど、強い思いだけで現状が変わらないことを知ってしまった我々が、どういう形であれ「希望」を見たいという気持ちを持ち、それがこの作品を成立させたのだと思う。だから意識的か不自然なほど「絶望」はムンバイの街に圧倒されるかのようにその姿を見せることなく影を潜める。

ダニー・ボイルの作品といえば『トレインスポッティング』(あんまり好きではないけど)や、『28日後...』などだが共通して見られる疾走感ある映像は健在。まぁ疾走感があるというより、単純に登場人物たちが走りまくっているという感じだけど。しかし今作との明確な違いは、常に絶望を振り切るかのように、全力で迷走するように駆けていたような感じではない。ジャマールは愛に向かって走っている。どんな苦境に立たされようと、光に向かって走っている。だからラストも分かりきっている。分かりきってはいるけれど、ホッと胸を撫で下ろして感動してしまった。

幼少期の「ドキュメンタリー的な方法」*1で撮影された雰囲気から、どんどんドラマチックになっていく臭さは狙ったのか。エンドロールに至ってはフィクションの臭いを隠そうともしていない。衣装も変えずに撮影したのは『この物語はフィクションです』という注意書きと同じ意味なんだろう。インド映画のパロディというよりは。

少年が青年になるように、ボンベイはムンバイとなる。スピーディに発展を遂げるインドの落ち着きのない熱気を感じる。今の勢いあるインドだからこそ出来た映画で、さぞ死臭漂うハリウッドからすれば新鮮に見えただろう。結果見事にアカデミー賞で作品賞・監督賞を含めた計8部門に輝いた。が、確かに高評価に値する作品だとは思うが、それこそみんなが「これも運命だと諦めた」証拠みたいだし、過大評価かと。だから映画として素晴らしいというよりも『いい夢見させてもらったよ』という大昔の娯楽作品みたいです。そこを押さえると楽しめると思うよ。

おまけ
画像はあえて臭いのを選んだ(笑)にしてもヒロインは美人だよ。インドの美人は本当に美しい。いつも日照りが良さそうな国だけど、ヒロインは太陽というよりはその境遇から月光のようなキレイさ。あと司会者役のボリウッド俳優は、みのもんたでした。

追記:5/10ミス訂正しました。

*1:ダニー・ボイルは言ってる