『レスラー』

おすぎみたいなことを言えば、ずっと大事にしたくなるような一本。DVDが出たら気に入りの映画が並べてある棚の目立つところに置くと思う。

元々格闘技を鑑賞するのが苦手だけれど、一時期テレビで深夜放送のWWEをコッソリ観たりしていた。というか観ることができた。もちろん、その理由はプロレスなんてどうせ八百長のエンターテイメントなんだろうという少々小バカにした大前提とあくまで競技ではなくショーであることの安心感があったからであって、それでもクラスでプロレスの技で互いを締め合うことに熱くなっている男子を女子らしい冷めたような目で見てせせら笑っていたような気がする。ちなみにWWEではジョン・シナのファンでした。我ながらやっぱり女だな、と。ははは。

しかしこの「レスラー」には参った。ストーリーと主演がミッキー・ロークであるという情報を得たときにも既にガチであることは分かっていたけれど、これには本当に参った。正直、いま思い出すだけで胸がじんと熱くなる。ベタですまない。でも本当に良かったんだよ。

80年代に一世を風靡したレスラー「ザ・ラム」こと主人公のランディ。平日はスーパーの店員、週末はレスラー巡業をし、トレーラーハウスでの生活を食いつなぐ。老いと長年必殺技によって酷使され、痛み止めでドラッグ漬けになった身体はボロボロだけど、心だけは栄光の時代に置いてきたかのように過去にすがることで保たれる。リング上では拍手を受けて輝くが、ひとたびリングを降りれば孤独な中年男そのものだ。ステージを盛り上げるために、仕込んだ刃物で故意に傷つけた額から血が流れようと、ステイプラーやガラスの破片が体中に刺さろうと、カメラが肉薄して映される彼の痛々しさはフィジカルなものではないことが伝わる。

家庭を顧みなかった男はひとりぼっちだが、彼にも想いを寄せる相手がいる。この、彼と現実世界を繋ぐ唯一の存在ともいえるストリッパーのキャシディを演じるこのマリサ・トメイの熟女の魅力がスバラシイ!若かったときよりセクシーなんじゃないか?整ったボディラインを惜しげもなく晒してくれます。なんで女優が脱ぐことぐらいが「体当たり」になるのかなぁ。そう考えると彼女のサラッと当たり前に脱いでいる感じがとても良い。ちょっと濃いめの化粧と、オフ時のスッピンの落差も良かった。

ランディは心臓発作を起こしてから、キャシディの協力もありせっかく娘ステファニーとの関係修復を試みるが、またとんでもない失態を犯して親子は破綻してしまう。そしてキャシディと恋人になることすらも叶わない。離婚した子持ちのシングルマザーじゃなければね…

ミッキー・ロークは度重なる整形(と失敗)やボクシングによって崩れた顔も生かして、ランディになりきっている。もうなんかこれまでの彼の山あり谷ありの人生はランディの役作りとして運命に仕組まれたのではないかと思うのも考えすぎではないと思えるほどの演技をしているからね。だからこそ、結局小さなリングで声援を受けながらエンターテイナーに徹することでしかうまく振る舞えない、どうしようもなく愚かで不器用で心優しい大男を自分は愛さずにはいられないのですよ。本当にしょうもないダメ人間なのにね!

ランディがキャシディと80年代の音楽が最高だった*1と語り合う場面があり、ランディのテーマソングもガンズ。この手の音楽は本当に苦手だけど、ランディにはピッタリだった。似合いすぎるぐらい似合ってる。そしてラストに流れるブルース・スプリングスティーンのしわがれた声が、どこまでも優しく、あたたかい鎮魂歌として響いていた。

*1:そしてニルヴァーナが台無しにした!と