『第9地区』エビ大好きフ○スキー


自分の場合、好きな映画というと突っ込みどころがあったり、つじつまが合わない部分が合ったりするような、完璧とはいえない作品が比較的多い気がする。もちろん非の打ち所がないような作品もあるけれど、例え粗っぽい部分が目立とうとも、それをあっさりと覆いつくすエナジーがある映画にのめりこんでしまう。『第9地区』はまさにそのような部類にカテゴライズされ、私の心の棚に出し入れし易い位置にしまっておくような作品だった。とにかくイカす。

1982年、ヨハネスブルグの空に突如出現した巨大な宇宙船のような物体。かなりゴツイが、全く動かないため、突入して中を見てみたところ衰弱したエイリアンたちがウヨウヨいた。上層部のエイリアンたちは病気で死んでしまったようで、生き残ったのは低脳なエイリアンたちばかり。そう、ブラジャー付けて小便撒き散らすような連中だ。

彼らが回復するように栄養を与えたものの、甲殻類のような外見から人間は彼らを「エビ」と卑下し、第9地区アパルトヘイトの如く彼らを収容していた。宇宙船は20年経っても空に浮かんでいるし、エビは増加する一方で、人間のゴミ漁ったり、好物のゴム目当てにタイヤを盗んだりするため、市民の不満は爆発寸前。さらに彼らの大好物の猫缶を高値で売りさばくために、エビ相手に商売をするナイジェリア人組織なんかもいる。そんな第9地区アナーキーでムンと臭いが立ち込めるようなスラムの空気、カオスな世界観が凄く良い。

おおよそ主人公になるべき人物には見えない恐ろしいほど破格的に平凡な男のヴィカスが主人公。彼は世界最大の武器メーカーである民間企業MNUの職員で、市民の暮らしを脅かしている第9地区からエビを第10地区へと移すべく、書類に承諾してもらうという大役を任される。移住計画の真の目的は彼らが密輸した武器を押収することなのだから、責任は重大。でも冒頭に流れる彼の親族のインタビューによると、彼の身に何かとんでもないことが、少なくとも良からぬ何かが降りかかることだけは分かっているんだよね・・・。

ヴィカスは武力を行使せずに穏健な態度でエビたちに近づいてはいるものの、基本的にはエビを見下しており、エビのタマゴを見つけたら日で燃やすし、子どもエビには「キャンディーあげるよ」と甘く見てしっぺ返しを食らう。が、エビたちも揃いも揃ってバカばっかりで、目の前の餌にすぐ目が眩むような連中がほとんどだった。しかし、その子どもエビの父親クリストファーは賢く、なんとかして地球に帰ろうと20年間骨身を削るような研究を重ねていた。

そしてバッドアクシデントが起きて、ヴィカスは右手がミギーに・・・というかエビーになっちゃうんだけど、そこから毛嫌いしていたエビと心を通わせるようになり、想像を絶するほどエモーショナルで熱い、ゴア描写も惜しまない(かといって不必要なグロさ感じない)壮絶なバトルを人間相手に繰り広げることになる。主人公は平凡とはいってもMNUに働いているエリートだし、いかにも組織としては都合の良い役人的な性質を持ったタイプ。奥さんの親父が社長だっていう婿養子な設定以上に、彼のそういう組織の末端で忠実に働いてくれそうな真面目なヤツに、やらしておけば良いという仕事をきっかけに、組織の敵となり、敵の敵は味方となり、という展開が大好き。

以下ネタバレ入るけど、エビが宇宙に帰るための燃料が何故人間をエビに変身させる作用があるのか。何で顔に浴びたのに腕が変わるのか。そもそもなんで猫缶に目がないのか。などなどの詳細に関しては納得しづらい問題があるのだけど、友情芽生えてしまう姿に男泣き。それだけで片付けたっていいぐらい個人的に良かった。これは瞳で訴えるエビちゃんの、エイリアンの表現方法が、心の琴線をガシガシ触れてきたからというのも大きい。彼らが何を目的に地球に現れたかは明かされないものの、地球に疲れ果てて「星に帰りたい」とウルウルされたら、そりゃあね・・・クリストファーの息子もハンパなく可愛くて優秀。

最後までクリストファーとヴィカスを結ぶものはお互いの利害なんだけども、それを超えたものが見えたあとの、アイロニーに満ちたオチが苦い余韻をもたらしてくれる。あの表情、なんともいえないよな。きっと人間ヴィカスだったときの記憶は消えて、指先が憶えている習慣だけが僅かな安らぎを与えてくれているんだろう。

この調子だと続編あるだろうけど、どうなんでしょうね。見守ろう。どうであれ『第9地区』は最高です。