「さよならもいわずに」

さよならもいわずに (ビームコミックス)

さよならもいわずに (ビームコミックス)

本屋で平積みされ続けている作品。去年購入して読んだものの、その時は感想を述べる余裕がなかったので寝かしてました。とにかく、うえけんがこんなに話題になったことは無い気がする。まず、いつものギャグ漫画そのままのタッチで、妻を失った悲しみを作家性の高い作品へと昇華させていることがすごい。頁にたれて、そのまま沁みていく真っ黒なインクのメタ的演出から、そのインクが主人公(作者)の胸と目を黒々と染めていく描写など、改めて漫画の奥深さを感じさせられます。でも突然最愛の妻を「さよならもいえずに」失うということが、いかに辛く、受け入れがたいものか、読み手にありのまま剥き出しの悲しみをぶつけ続けるので、本当に重い。こういった別れの話は感動色が強くなり、「さて自分だったらどうするだろう。大切な人の死をどう受け止めるだろう」と何かしら問いかけるようなものがあるけれど、この作品に関してはそういう啓発的な意図を全く感じない。良い意味でも、悪い意味でも、「さよならもいわずに」は上野顕太郎亡くなった妻の物語として始まり、完結する。とてもパーソナルな作品で、自分に置き換える余地を与えない。少なくとも私はそう思った。数時間前の人生から時間の流れも景色も何もかも一変してしまう、大切な人の死がもたらす喪失感。それは、経験した者しか理解できないし、経験した者として作者は漫画家の使命を果たしている。うえけんは、序文で述べているようにただ妻の死を描くだけにならないよう表現者である事を心がけたのだろうけど、やっぱり今作は誰かに訴えるという意味では弱い。むやみやたらの共感していいのか分からないぐらいの感情に埋め尽くされていて、軽々しく処理できないのよ。どういう気持ちで、最後までペン入れをしていったのだろうと考えるだけで、経験の浅い私はパンクしそうになる。そして号泣しながら本を静かに閉じたとき、恐らく再び開くことは無いだろうなと、心のどこかで思ってしまったのです。

というわけで、今更ながら感想を自分なりにまとめました。でも、数か月前に一度だけ読んだ作品のことを、これだけ覚えているなんて、やっぱり強烈なインパクトがあったんだろうな・・・むやみにおススメは出来ませんが、「一見」の価値はあります。こればっかりは事実。