山川あいじ『やじろべえ』 ― 言葉にしなければ思いは伝わらない

山川あいじの作品は今まで読んだことがなかったです。元々少女漫画の中でもマーガレット系の作品はほとんど読んだことがない。ただ、ふと新作コーナーにひっそりと積んであったものを手に取っただけなのです。でもこれが個人的に当たり。

やじろべえ 1 (マーガレットコミックス)

やじろべえ 1 (マーガレットコミックス)

母親を亡くした娘・葉瑠と、義理の父親・誠司、血は繋がっていない二人の微妙な親子関係がテーマです。物語としては、中学三年生になった葉瑠が、自分の環境についていろいろと考え、気付き、自分の胸に手を当てて考える。そんな日々を描いているような感じです。「感じ」というのも、現時点ではストーリーらしいストーリーがなく、どちらかと言えば観念的な作品であるため、つかみどころがないのが特徴です。

でも、そんなふわふわとしたストーリーに絵が合っているので、取っ掛かりがなくてもスッと入ってくる。本当に絵が上手い。初期の作品もこれをきっかけに読んでみたのですが、ここ数作で格段に絵が上達されたような印象です。最近の流行りといえばそんな印象も受ける絵ですが、器用な人なんでしょうね。確かな、迷いのない優しい筆致で、軽やかに描かれる線が美しい。特に女の子が可愛いんです。クルクルと変わる表情がまた良い。体のバランスも乱れることなく描かれており、気持ちがいいです。

過去の話はまだほとんど語られず、ただ高校生になった葉瑠と誠司、そして広がっていく周りの人々との関係のみにとどまっています。そして、葉瑠は自分の気持ちにとても正直です。優しくされたから優しくしたい、でも伝えたい気持ちは言葉にしないと伝わらないことを分かっている人は、大切に育てられた人なんだと思う。葉瑠はまさにそんな子です。過去を語らずとも、誠司の思いやりに満ちた生活を送っていたんだろうと思います。物語の冒頭は、誠司の祖父の葬式の場面で始まり、葉瑠は母親がこの世を去ってからの10年、葉瑠には誠司がいたけれど、誠司はずっと最愛の女性がいない寂しさを抱えていたのだろうと気づきます。母性に近い愛を、葉瑠は持ち始めたのかなと感じました。少し寂しそうな誠司の笑顔を見ると、確かに母性愛をくすぐられるような・・・。兄妹のような、父娘の関係を「やじろべえ」に例えてるんですかね。

誠司の大学時代の先輩とその息子や、音信不通だった幼馴染など、少しずつ葉瑠を取り巻く人々は増えていきますが、今後どう絡んでいくのか予想は出来ないです。ひょっとしたら、淡々としすぎて退屈な作品になってしまうかもしれません。現段階でも、ほのぼのとした作風の割に、台詞やコマが多く、詰め込み過ぎな印象もあります。でも代えがたい何かを秘めていると思うので、期待をもって2巻を待ちたいです。

友だちの話 (マーガレットコミックス)

友だちの話 (マーガレットコミックス)

後追いで買った「友だちの話」は、河原和音が原作を務めているんですが、こちらも非常に良かった。ストーリーに、絵が合ってるんです。性格は少々キツイけど男受けする抜群の容姿を持った女の子と、そんな子と一緒にいるひたすらお人よしで良い人キャラのちょっとブサかわな女の子、正反対の二人の友情を描いた話です。でも、そうそうブサかわな少女って描けないじゃないですか。でも、そのブサかわ加減が実にパーフェクト。本当に可愛いです。本当にそこらへんに転がってそうな女子高生の日常をチョキチョキと切り取りながら、少女マンガ的な恋愛面もきっちりと軸に置いている素晴らしい作品です。学生時代は、大好きな女友達と一緒にいる時間が一番楽しかったなと振り返りたくなりました。そういや私も、正反対な性格の子の方が仲良くなれるんですよね。まず買うならこの一冊だと思います。

恋々。 (マーガレットコミックス)

恋々。 (マーガレットコミックス)

平成15〜16年ころの作品を集めた短編集。顔のパーツすべてを強調したようなタッチは随分いまと違う。絵は今の方が良いけど、流行に流されやすいのかなと少し思ってしまった。恐らくは今の絵柄で定着するんじゃあいかな。少女漫画=恋愛モノと簡単に直結しないため、つかみどころのない作品が多い気がするけど、2回目、3回目でしっくり来るのがこの人の作品の特徴なのかも。日常の小さな出来事を通して、自分の心に向き合う主人公を描くのが上手いと思います。